トマト黄化葉巻病とは、トマト黄化葉巻ウイルス(Tomato yellow leaf curl virus、以下TYLCV)によって引き起こされるウイルス性の病気で、現在、国内で感染の広がりを見せています。TYLCVはタバココナジラミにより媒介されるので、タバココナジラミの防除が感染の有効な対策となります。
今回は、国内で被害が大きく、また病気が拡大する際の主な感染源とされているトマト、ミニトマトのトマト黄化葉巻病について詳しく説明していきます。
トマト黄化葉巻病は、国内では1996年に初めて確認され、その後全国に急速に広がりました。国内ではトマト、ミニトマト、トルコギキョウなどで被害が見られますが、被害が大きく、病気が拡大する際の主な感染源として考えられているのはトマトとミニトマトです。
トマト(ミニトマト)がTYLCVに感染すると、段階的に症状が進みます。
発病初期は、生長点付近の新葉のふちから葉色が淡くなり、表側に巻くような症状が見られます。その後、節間が短くなり葉脈間が黄化し葉が縮れてきます。さらに病勢が進むと、小葉のふちが葉の裏側に巻き込み球状になったり、小葉が退化して棒状になったりするなどの奇形葉が現れます。
発病後は開花数が減少して、開花したとしても着果しにくくなります。そのため生育初期に感染・発病した株では、商品価値のある果実の生産は難しく、全く収穫できないこともあります。発病前に着果した果実は比較的健全ではありますが、TYLCVの感染を広げないためにも感染株は速やかに取り除き、埋没または焼却処分することが推奨されます。
*なお、感染したトマト果実を食べたとしても、人体に影響はありません
またトマト黄化葉巻病は、国内ではトマトやミニトマト、トルコギキョウで被害が出ていますが、ピーマンやジャガイモ、雑草などにも感染が確認されています。しかし、トマトやミニトマト、トルコギキョウ以外では、感染しても病徴が現れません。タバココナジラミの嗜好性などから、罹病したトマト、ミニトマトが主な感染源として考えられています。
国内で確認されたTYLCVは、塩基配列の違いからマイルド系統の「愛知株」と「静岡株」、激症系統(イスラエル系統)の「長崎株」と「土佐株」などの分離株が知られています。
しかし、トマトの品種や感染時期の影響もあるため、症状からこれらの系統を明確に区別することは難しいとされています。
トマト黄化葉巻病はタバココナジラミがTYLCV感染株を吸汁することで保毒し、その後さらに健全株を吸汁することで感染が広がります。感染株吸汁後は、約1日で健全株へ感染させることができるようになると言われています。
TYLCVは経卵伝染や汁液伝染、種子伝染、土壌伝染はしないとされており、葉かきなどの管理作業では感染はしないと考えられます。しかし接ぎ木では伝染するので、台木が感染していた場合は株全体に広がります。
トマトが感染してから発症するまでの潜伏期間は、夏場の高温期は7~20日程度ですが、低温下では潜伏期間が長くなるケースもあります。ただし、発症前でもTYLCVに感染した株は感染源となりますので、早期発見とそれに応じた対策をとることが感染抑制に繋がります。
コナジラミ類は、ウンカ類やアブラムシ類等と同じカメムシ目の昆虫で、多くの農作物に対して口針で吸汁加害します。野菜栽培で問題になるのは主にオンシツコナジラミとタバココナジラミですが、DNAの塩基配列の違いや宿主植物への影響の違いから、バイオタイプと言われる分類で区別されます。
タバココナジラミは遺伝的、生物学的に異なる約40種のバイオタイプが世界に存在しています。バイオタイプの違いによって寄生植物や有効な薬剤が異なります。
現在、日本では主に以下のバイオタイプが確認されています。
TYLCVは、バイオタイプBとバイオタイプQのタバココナジラミによって媒介されると考えられています。
国内では1989年にバイオタイプB(シルバーリーフコナジラミ)の発生が初めて確認されました。多くの作物・雑草で繁殖するため、今では全国に分布しています。野外では越冬できないのですが、施設内で冬を越す個体がいるため、完全に撲滅するには至っていません。
成虫・幼虫が多数寄生した場合、排泄物(甘露)によるすす病が発生し、トマト(ミニトマト)では果実の着色異常という直接的な被害も見られます。TYLCVについては、タバココナジラミの発生が低密度でも媒介されるので、注意が必要です。
またタバココナジラミバイオタイプQは、バイオタイプBに有効なピリプロキシフェン剤などに対して抵抗性を持っているため、有効な薬剤が限られます。
これらは外見での判別が難しいことから、タバココナジラミやトマト黄化葉巻病が発生した際は、バイオタイプQに有効な防除対策が必要となります。
一方、トマトやミニトマトに発生するコナジラミ類には、タバココナジラミによく似たオンシツコナジラミがいます。外見の特徴では見分けることの難しいオンシツコナジラミですが、こちらはTYLCVを媒介しません。
しかし、オンシツコナジラミとタバココナジラミは同時に発生することが多いので、施設内にコナジラミ類の発生が確認された際には、直ちに防除に努めましょう。
トマト黄化葉巻病はタバココナジラミによってのみ媒介されるので、発生や拡大を防ぐにはTYLCVを保毒しているタバココナジラミを防除することが有効な対策となります。そのことから、ハウス栽培におけるトマト黄化葉巻病の防除対策として以下の三原則が掲げられています。
1. 入れない
2. 増やさない
3. 出さない
それぞれの対策について、詳しく説明していきます。
1.入れない
施設内でトマト黄化葉巻病の発生を防ぐためには、TYLCVを保毒しているタバココナジラミや、すでに感染している苗を施設内に持ち込まないことが重要です。そのための有効な対策をご紹介します。
■ 育苗圃場や栽培施設、すべての開口部に目合い0.4㎜以下の防虫ネットを張り、タバココナジラミの成虫を侵入させないようにする。
> この際、出入り口のカーテンは二重にし、開放状態にならないようにしましょう。ただし、目合いの細かいネットを使用した場合、特に夏場などでは施設内の温度が上昇しますので、温度管理や収穫などの作業には注意が必要です。
■ 施設内外に黄色粘着板や黄色粘着ロールを使用する。
> タバココナジラミは黄色に誘引される性質を持つので、黄色粘着板や黄色粘着ロールを使用することで、施設内外においてタバココナジラミの成虫を捕殺することができます。
■ 施設周囲に光反射シートを設置する。
> 昼間活動する虫は、下から強い光を受けると上下感覚を失い、正常に飛翔することが出来なくなります。そのため、施設周囲に光反射シートを設置することで、施設内への侵入を防ぐことができます。
■ UVカットフィルムを施設内に使用する。
> 昆虫類は近紫外領域の光(紫外線)を感知することによって活動しています。UVカットフィルムで覆われた施設は、昆虫類にとっては暗黒に近い環境と考えられ、タバココナジラミ成虫の施設内への侵入を防ぐことができます。ただし、ミツバチとマルハナバチの活動も悪くなるので、これらを導入している施設での利用は推奨されません。
2.増やさない
施設内でトマト黄化葉巻病が発生した場合、TYLCVを保毒したタバココナジラミの侵入が疑われます。黄色粘着板等でコナジラミ類が確認された場合は、速やかな防除対策が必要となります。
■ 発病株は見つけ次第抜き取り、埋没または焼却処分を行う。
■ 定植時に、タバココナジラミの発生を抑制するためにネオニコチノイド系粒剤を処理する。
■ 薬剤抵抗性の発達を防ぐため、ローテーション防除を行う。
> 同系統の薬剤のみを使用していると、薬剤抵抗性が発達する可能性があるので、別系統の薬剤を組み合わせて防除を行います。また抵抗性の発達しにくい気門封鎖剤や、糸状菌製剤の活用も推奨されます。
薬剤を散布する際、幼虫や蛹は下葉に多く、成虫はトマトの生長点付近の若い葉に集まる性質があるので、全体的に散布する必要があります。葉の裏などに隠れている個体も多くいるので、トマト(ミニトマト)の成長に応じて葉かきなどの管理作業を行い、薬剤が全体に行き渡るようにしましょう。
3.出さない
トマト黄化葉巻病が発生した施設から、TYLCVを保毒したタバココナジラミが外に分散することで、周囲に感染が拡大します。そのため、施設内からタバココナジラミを出さない対策が必要です。
■ 作期終了時には株を切断または伐根して、作物を完全に枯死させる。
■ 同時に施設内を密閉して蒸し込み処理(40℃で10日以上)を行い、タバココナジラミを死滅させることで、野外への分散を防止する。
また、三原則以外にも、以下のことに注意が必要です。
■ 施設内外の雑草や野良生えトマト、管理作業による感染株の残さはコナジラミの増殖や感染拡大の原因となるので、除去・処分する。
■ 抵抗品種株の活用も有効だが、発病が抑制されるだけでTYLCVには感染し、感染源となりうるので、感受性品種と同様の対策をする。
以上の対策を複合的に行うことで、より効果的に防除出来ますので、可能な限りの対策を行うことが推奨されます。
植物病の代表的な検査方法として、抗原抗体反応を利用した「イムノクロマト法」「ELISA法」、DNA増幅技術を利用した「PCR法」「LAMP法」などがあります。
■イムノクロマト法
ろ紙を伝って検体が吸い上げられる過程で、陽性であれば特定の位置にバンドが現れ、陰性であればバンドが現れませんので、判別が可能です。特殊な機器を必要とせず、簡単・迅速に行うことが出来るため、ほ場での診断に有効です。
■ELISA法 (Enzyme-linked immunosorbent assay)
検査用プレート等に固定された抗体が、検体中の抗原をキャッチし、さらにそれを認識する抗体で挟みこむことで(サンドイッチ法)、特異性が高く検出することが可能です。多検体を一度に検査するのに適した方法であり、また蛍光強度や吸光度を測定できる機器を用いることで定量分析に用いられますが、やや操作が煩雑で検査に要する時間も長い傾向にあります。
■PCR法 (Polymerase chain reaction)
新型コロナウイルスの検査にも良く用いられている方法ですが、温度を上げたり下げたりする工程を繰り返すことで、検体中に調べたいDNA配列が含まれていれば指数関数的に増幅されます。検体が少量であっても検出することができますので、高感度な方法と言えますが、温度の制御を行うサーマルサイクラーという機器を必要とします。
■LAMP法 (Loop-mediated Isothermal Amplification)
PCR法と同様にDNAの増幅の有無で判定する方法ですが、こちらは温度の昇降を必要としない国産の技術です。従ってサーマルサイクラーが無くても、一定温度を保てる環境さえあれば検査可能ですので、PCR法と比較して設備投資の面で優位性があります。
トマト黄化葉巻病は発症することで感染が明らかとなりますが、その時点で感染から少なくとも1週間は経過しています。つまり、発症を確認した時には既に施設内のタバココナジラミがTYLCVを保毒し、周囲の株に感染を広げている可能性があります。そのため、早期発見が感染拡大を防ぐ重要な鍵となります。
当社の「トマト黄化葉巻病診断キット」はLAMP法を採用し、シンプルでスピーディーな診断が可能です。
トマトやタバココナジラミを爪楊枝で突き、先端に付着した微量の試料を検査溶液に浸して、60~65℃で1時間保持すれば検査は完了します。検出には蛍光の発色を採用しているので、陰性、陽性の判定が目視で容易です。
定植前のトマト(ミニトマト)苗の感染の有無や、タバココナジラミが施設内に発生した際のTYLCVの保毒の有無を、高感度かつ容易に判断できます。
タバココナジラミは、バイオタイプにより薬剤の感受性が異なります。また外見で判別の難しいオンシツコナジラミとも、駆除に有効な薬剤が異なります。特にタバココナジラミバイオタイプQは薬剤耐性を獲得しているので、バイオタイプBや在来系統よりも有効な薬剤が限られます。
前述の通りタバココナジラミはTYLCVを媒介しますが、オンシツコナジラミは媒介しません。そのため、コナジラミ類のバイオタイプを調べることは、トマト黄化葉巻病の発生や拡大を抑える対策に大きく関わってきます。
当社の「タバココナジラミバイオタイプQ検出キット」は操作が簡便なLAMP法で、タバココナジラミバイオタイプQとそれ以外のバイオタイプを判別できるキットです。
操作方法は、検体(タバココナジラミ1頭)を添付の磨砕液を用いて磨砕した後、検査溶液に添加し、60°Cで1時間保温するだけと、非常に簡単です。また、検出には蛍光の発色を採用しているので、目視での陰性、陽性の判定が容易にできます。
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・トマト検査キット一覧
・トマト黄化葉巻病診断キットの使い方動画を公開
参考文献
・ 栃木県「栃木県トマト黄化葉巻病(TYLCV)封じ込めマニュアル」
・ 山口県農林総合技術センター「トマト黄化葉巻病対策の手引き」
・ (独)農業・食品産業技術総合研究機構「トマト黄化葉巻病の防除に関する技術指針」
・ (独)農業・食品産業技術総合研究機構「トマト黄化葉巻病と媒介コナジラミ、防除法を巡る研究情勢と問題点」
・ 愛知県「病害虫図鑑 トマト黄化葉巻病」
・ 愛知県農業総合試験場「LAMP法を利用したトマト黄化葉巻病の診断」