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やさしいマイクロピペットの使い方

やさしいマイクロピペットの使い方

とても少ない量の液体を正確に取り扱うことができるマイクロピペットは、遺伝子検査を行うのに欠かせないツールです。今回はマイクロピペットを使ったことが無い方や、あまり慣れていない方を対象に、取り扱うための基本操作やポイント、注意点などを学んでいきたいと思います。

  1. マイクロピペットって何?
  2. マイクロピペットの部位と構造
  3. 容量の調整方法と基本操作
  4. チップの取り付け
  5. 液体の吸引
  6. 液体の吐出方法
  7. メンテナンス方法
  8. おわりに

1 マイクロピペットって何?

マイクロピペットとは、少量の液体を正確に測りとるための器具です。たくさんの容量(例えば1 L)の液体を正確に測りとるにはメスシリンダーなどを使いますが、マイクロピペットはその名の通りマイクロリットルの世界、つまり1 mL以下の容量の世界で活躍する器具になります。

扱う液体の全体量が小さくなると、誤差の影響も大きくなります。例えば1Lの水にインクを1滴入れても、薄められてほとんど色が変わりませんが、1 mLの水にインクが1滴入った場合は、色は大きく変わってしまうでしょう。
遺伝子検査の世界では、とても少ない量の液体を扱います。従って、それらを正確に測りとることができるマイクロピペットがとても大切になってきます。

また遺伝子検査では溶液を別の容器に移す(分注といいます)、液体と液体を混ぜるという操作を何回も行う必要がありますが、マイクロピペットは連続で使用できるよう、先端にピペットチップ(以降チップ)と呼ばれるものを取りつけ、一度使用したら捨てて交換するようになっています。そのため、洗うことなくすばやく繰り返し使うことが可能です。


左からP1000用チップ、P200用チップ、P20用チップ

このように、少量の液体を扱うのに大変便利なマイクロピペットですが、正しく使わないと故障したり、正しい量が測りとれなかったりすることがあります。難しくはありませんので、ここで正しい操作を覚えて、ご自身で遺伝子検査ができるようになりましょう。

マイクロピペットの故障や、検査の失敗につながるようなことは注意、検査を上手に行うためのテクニックやアドバイスはポイントとして紹介します。

2 マイクロピペットの部位と構造

まずはマイクロピペットの部位について説明いたします。ここでは弊社が取り扱っております「遺伝子検査ツールボックス」を用いて説明します。

流れとしては、まず液量設定ダイヤルを回して目的の数値に合わせた後、利き手でグリップを握り、親指をプッシュボタンに置きます。チップホルダーの先端にチップを取り付け、プッシュボタンを操作して溶液の吸引、吐出を行った後、イジェクターボタンを押してチップを取り外すというのが一連の流れになります。

マイクロピペットはプッシュボタンを通じて内部のピストンを動かすことで空気の量を変化させ、それによって液体を吸引、吐出する仕組み(エアーディスプレイスメント方式)です。ピストンの動きはOリングと呼ばれるゴムの輪で内部の気密性を保っています。また内部にバネが入っているため、プッシュボタンを押すと元に戻ろうとする力が働きます。

持ち方は人差し指にフィンガーレストをかけるようにして自然に手に握り、親指でプッシュボタンを押せるようにします。あまり力が入りすぎるとプッシュボタンをスムーズに動かせませんので、肩や手首をリラックスさせて自由に動かせるようにしましょう。

ポイント:ピペットを安定させる方法

もし手が震えるようなら、肘を机に置いて安定させましょう。またチップホルダーにもう一方の手を添えることで、先端が安定します。ただし添えた手によって先端を汚さないように注意しましょう。作業前に手を洗う、手袋をするなど、常に清潔な状態でマイクロピペットを触ることを心掛けてください。

一般的によく扱うマイクロピペットとして、200-1000 μL用(P1000)、20-200 μL用(P200)、2-20 μL用(P20)の3種類があります。プッシュボタンの上部に最大容量が記載されていますので、持つ時にまず確認すると良いでしょう。

名称 P1000 P200 P20
最大容量(μL) 1000 200 20
最小容量(μL) 200 20 2

注意:ピペットの最大・最小容量を守りましょう

ピペットの許容範囲を確認し、適切なマイクロピペットを使うようにしましょう。範囲外の容量で使うと精度が保証されないうえ、内部に溶液を吸い込むなど、故障につながる可能性があります。許容範囲はメーカーによって異なる可能性がありますので、必ず説明書等でご確認ください。

マイクロピペットはいくつかの機器メーカーより販売されており、目盛の合わせ方などが少し違う場合があります。例えば液量設定ダイヤルにロック機構がついているマイクロピペットの場合は、ロックを外してから目盛を調節し、そのあと再度ロックするようにしてください。ただ基本的な原理や取り扱い方法は同じですので、よく使うものに慣れておけば違うメーカーのものでもそれほど戸惑うことはないでしょう。

3 容量の調整方法と基本操作

容量の調整は液量設定ダイヤルを回して合わせます。今回説明するマイクロピペットでは数字が縦に3つ並んでいますが、一番上の数字がマイクロピペットの最大容量の位を表します。すなわち、P1000の場合は最大容量が1000 μLなので1000の位を、P200の場合は最大容量が200 μLなので、100の位を、P20では10の位を表しています。2番目、3番目の数字になると、一番目の数字の1/10、1/100の位を表しています。さらにその下の位については、3番目の数字の下に刻まれている目盛で調節します。マイクロピペットの容量によって刻み幅が異なる点はご注意ください。

*P20の一番下の数字は赤色に変わっていますが、これはこの数字がマイクロリットルの範囲よりもさらに小さいナノリットルの範囲であることを表しています。

設定した量の液体を吸引するには、プッシュボタンを押し下げてから戻すのですが、押し下げたときの停止位置が2か所あります。それぞれ第1ストップと第2ストップですが、第1ストップまでは軽くプッシュボタンが動き、そこから第2ストップまで押すには重くなります。それぞれの役割を理解して使いこなしましょう。

初期位置から第1ストップまで

…液量設定ダイヤルで設定した分の体積の空気が押し出されます。

初期位置から第1ストップまで第1ストップから第2ストップまで(吐出時に使用)

…設定した量からさらに少し空気が押し出されます(チップ残りを防ぐため)

4 チップの取り付け

マイクロピペットの先端に付けるチップは、容量によって適切なものを選びます。初めに述べたとおり、空気がクッションになって溶液を吸い上げますので、空気が漏れるようなら正確な量は測りとることができません。チップがしっかり取り付けられていないと内部の気密性が保たれず、液漏れの原因になりますので、必ず使用するピペットに合ったチップをしっかり取り付けるようにしましょう。
チップはきれいに保つ必要がありますので、チップケースに入ったままの状態から直接取り付けます。チップケースの蓋を開け、マイクロピペットの先端を押さえつけて取り付けましょう。
チップには内部にフィルターがついているものがあります。フィルターがあると、マイクロピペット内部に溶液が入るのを防ぐことができます。

注意:マイクロピペット内部に溶液を吸い込んでしまった場合

チップにフィルターが付いていても、内部に溶液が入ってしまうことがあります。その場合はチップを取り外し、ティッシュペーパーや乾いた清潔な布などに向けて、先端をトントンと軽く叩いて中に入った溶液を出します。吸い込んだ溶液が内部に残ったままの場合、気密性を保つための内部のOリング(ゴム)が劣化することがあります。また汚れがひどい場合はメーカーにメンテナンスをお願いしてください。

注意:先端の扱いは大切に

チップを取り付けるとき、マイクロピペット先端をチップケースに強く叩きつけて取り付けないようにしましょう。マイクロピペットは内部の気密性を保つことで正確性が保たれていますので、先端にキズやひびなどが入らないよう大切にしてください。

注意:手でチップを取り外す場合について

チップイジェクターがついていない場合など、手でチップを付け外しすることもあります。この場合、手で持つのはチップの根元に近い部分に限定し、溶液に接するチップ先端部は絶対触らないようにしましょう。

5 液体の吸引

設定した目盛の容量を吸い上げるには、第1ストップまで押し下げた状態でチップ先端を液体中に入れ、プッシュボタンをゆっくり初期位置まで戻します。するとそれに合わせて溶液がチップ内部に吸引されますので、完全に吸い上げが終わったら液面からチップを引き上げます。この状態で分注したい容器、あるいは混合したい溶液に速やかに移動して吐出しましょう。



クリックで再生(吸引)

もう少し流れを細かく見て、注意点などを挙げていきたいを思います。

5-1 事前準備

ポイント:全体の流れをイメージする

マイクロピペットで溶液を吸い上げると、吐出するまでは手が離せません。蓋のある容器を扱う場合、慣れないうちはピペットを持つ前にあらかじめ蓋を開けておいてから吸引操作を行うと良いでしょう。
またマイクロピペットにチップを取り付けてから捨てるまでの流れを考え、手がスムーズに動くようにチップケース、サンプル、吐出先容器、チップ捨てなどを配置しましょう。手がサンプルの上を行ったり来たりせず、一方通行の流れで行えるよう配置することが、検査を上手に行うコツです。

5-2 吸引する液量の設定を行った後、プッシュボタンを第1ストップまで押し下げる

注意:はじめに押し下げるのは第1ストップまで

溶液を吸引するときに第2ストップまで押し下げないようにしましょう。もし第2ストップまで押し下げて吸引すると、押し出すための余分な量まで吸引してしまうことになるため、設定した液量より多くなってしまいます。

5-3 チップ先端を溶液中に入れ、プレウェットを行う

ポイント:プレウェットについて

例えば水と油のように、液体にもその種類によって性質が異なります。いきなり吸い上げるのではなく、液中で吸い上げて出す操作を直前に1回行うことで、あらかじめチップの内部をその溶液になじませ、正確性を高めることができます。この操作をプレウェットといいます。

ポイント:泡立てない

必ずプッシュボタンを第1ストップまで押し下げた状態で液面にチップを入れましょう。もし液面にチップを入れてからプッシュボタンを押下すると、内部の空気が押し出されて溶液に気泡が入ります。特に泡立ちやすいタンパク質含有溶液などは気泡が入ることで正確な容量が取りづらくなったり、本来の働きが低下してしまったりする可能性があります。

5-4 プッシュボタンをゆっくり初期位置まで戻す(吸引)

ポイント:吸引中チップ先端は常に溶液の中に

溶液をチップ内部に吸い上げる分、液面が下がりますので、吸い上げている途中でチップ先端が液面から露出しないようにしましょう。容器の形状にもよりますが、特に全体の溶液量が少ない場合は液面の下がり方も早いので要注意です。もしチップ内部に気泡が入ってしまった場合は設定した正しい液量が吸い上げられていませんので、いったん溶液を戻してから再度吸引してください。

注意:プッシュロッドは急激に戻さないように

吸引するとき、握ったプッシュボタンを急に戻すと、内部が急激に減圧され、液体が跳ねてマイクロピペット内部に入る恐れがあります。フィルターチップがあると内部へ入るのを防ぐことができますが、フィルターに液体がついて正確な量が測れなくなりますので、チップを交換してからもう一度行ってください。

5-5 溶液からチップ先端を引き上げる

ポイント:チップ外側の液滴について

チップの外部に液滴がついていると、その分誤差になります。容器の淵などでうまく切ってください。

注意:先端を上に向けないように

溶液をチップ内に吸引した後は、マイクロピペットの先端は必ず下を向いている状態にしましょう。先端が上を向くと、吸引した溶液がマイクロピペット内部に入る恐れがあるためです。マイクロピペットを持ったまま容器の蓋を開閉するときなどは要注意です。

6 液体の吐出方法

チップ内に吸い上げた液体は、プッシュボタンを第1ストップまで押すことで吐出します。さらに第2ストップまで押すことで、チップ内の溶液を完全に出し切ることができます。分注後は良く撹拌して、濃度が均一になるようにしましょう。



クリックで再生(吐出とピペッティングによる混合)

吐出についても、一連の流れを分解し、注意点などを挙げていきます。

6-1 吐出先の容器を良く見える位置まで持ち上げ、チップ先端を容器の壁に沿わせる

ポイント:吐出先に注目

吐出先の容器(例えばマイクロチューブなど)は可能であればよく見える位置まで持ち上げて作業しましょう。しっかり目視で確認することで、何か異常があったときに気づきやすくなります。

ポイント:液跳ねに注意

吐出時は溶液が跳ねたりしないよう、容器の壁面に沿わせるようにしましょう。

6-2 チップ内の溶液を完全に吐出する

ポイント:チップに残っていませんか?

第1ストップまでプッシュボタンを押し下げて溶液を出しても、先端に少し溶液が残る場合があります。この残った液体をチップ内から完全に押し出すために、第2ストップを使います。第1ストップまで押すと、目盛で合わせた量の液量を押し出しますが、第2ストップまで押すことで、設定した量からさらに少し多く押し出すことができ、チップにわずかに残った液を押し出すことができます。

6-3 液体同士を混ぜる場合は良く混合する

ポイント:その溶液、均一に混ざっていますか?

液体同士を混合させるとき、液体を吐出しただけでは十分混ざっていません。例えば水で薄めるような飲み物の場合、十分混ぜなかったために下の方だけ味が濃かったといった経験はありませんか?検査において混合した溶液の濃度が不均一だと、想定されている通りに反応が進まず、失敗の原因になりますので、液体を吐出した後は必ず混合しましょう。マイクロピペットで液体を吸う、吐出するのを繰り返すことで、液体を混合することもできます。これをピペッティングといいます。混合の仕方はピペッティングのほか、機器(ボルテックス)による撹拌、タッピング、転倒混和などがあります。特に酵素を含む溶液は泡立ちやすいため、穏やかに混合する方法(ピペッティングや転倒混和)が適しています。



クリックで再生(タッピング)



クリックで再生(転倒混和)

ポイント:蓋への液残りにご注意

混合した後、蓋に溶液が付いた場合は、手首のスナップを利かせて振ったり、トントンと底を叩きつけたりして、蓋の溶液を容器内に落とすようにしてください。小型の遠心分離機をお持ちの場合はそれをご使用ください。蓋に液が付いたままの場合、開けたとき指先にその溶液が付いて汚染されやすくなります。

6-4 チップを取り外す

注意:イジェクターボタンによるチップの取り外しについて

先端に溶液が付いたチップが机やチップケースなどに触れてしまうと、検査環境の汚染につながりますので、使用後は速やかに取り外すようにしましょう。
イジェクターボタンで使用後のチップを取り外したとき、勢いよく外れて廃棄用容器の壁に当たって跳ねることがあります。廃棄用容器の外に飛び出ると検査環境の汚染につながりますので、ご注意ください。
取り外したチップは袋などにまとめておき、お住いの自治体が定める廃棄方法に従って捨てましょう。

ポイント:連続分注について

同じ溶液を続けて別容器へ分注(連続分注)する場合は、同じチップを繰り返し使うこともできます。この場合、先端が汚れて次の分注に影響しないよう、容器等に触れずに吐出します。これを繰り返すことで、チップ先端を汚さずに複数の容器に同じ溶液を分注できます。初めて吸い上げるときとそれ以降のチップ内部の条件を揃えるため、必ずプレウェットをしてから分注を開始しましょう。

7 メンテナンス方法

マイクロピペットを使用した後は、きれいな状態で保管しましょう。マイクロピペットで最も注意する部分は、チップを取り付けるチップホルダー先端部です。先端が汚れていると、例えば意図せず分注先の容器に汚染部分が触れることによって、汚染が広がる可能性があります。70%エタノールを染み込ませた布や市販のアルコール含有ティッシュなどで拭いてから保管場所に戻すようにしましょう。ピペットラックがある場合はそれに架け、無い場合は適切な箱に入れておきましょう。

ポイント:次に使う時には

初めに水をチップ内に吸ってから10~20秒くらい空中で停止させ、液が漏れないか確認してから使いましょう。液が漏れるようなら修理が必要となります。

ポイント:定期的に校正を

長い間使用していると、Oリングの劣化などにより設定した液量と実際吸引した液量に少しずつズレが発生する可能性があります。このようなズレは気づきにくいため、定期的にメーカーへ点検依頼した方が良いでしょう。このような設定液量と実際の液量を点検する作業を校正といいます。

8 おわりに

以上、マイクロピペットの使い方についてでした。いかがだったでしょうか。最初はうまく扱えないかもしれませんが、すぐに慣れると思います。使い方を忘れたり、迷われたりしたら再度見返してみてください。皆様がマイクロピペットを正しくご使用されるための手助けになれば幸いです。