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日本における植物病の防疫について

日本における植物病の防疫について

2020年は新型コロナウイルスが世界中に広まり、私たちの生活様式に大きな影響を与えました。一方植物にも病気が広がりますが、どのように対策されるのでしょうか。日本における植物病の防疫を考えてみたいと思います。

歴史上、ウイルスや病原菌はしばしば流行し、生物に大きな影響を与えてきました。特に2020年には新型コロナウイルスが世界的に猛威をふるい、私たちのライフスタイルを大きく変えました。
新型コロナウイルスはヒトに関することなので、厚生労働省が管轄しています。それに対して畜産、農産に関しては農林水産省が管轄しています。畜産関係の病気といえば、例えば鳥インフルエンザが発生し、養鶏所の鶏が殺処分されたというニュースを聞かれた方もいらっしゃると思います。また、豚熱が話題になったことをご存じの方もいらっしゃるかもしれません(豚熱は以前豚コレラと呼ばれていましたが、2020年から名称変更されました)。

一方植物病のニュースはあまり耳にされたことが無いかもしれませんが、過去にはウメ輪紋病(プラムポックスウイルス)が日本で初めて発見され、拡大防止のために有名な梅の公園の梅樹が伐採されるというショッキングな出来事もありました。

ヒトに関する病気は一般的には製薬会社によって治療薬が開発されますが、動物病や植物病は必ずしも治療薬が開発されるわけではありません。農畜産物において治療薬のない病気の蔓延を防止するためには、感染源を隔離、除去するしかありません。これらの対策は生産者、管理者の方にとっては大変な痛みを伴うものですが、更なる拡大の防止を考えると速やかな処置が大切になります。そのために、農産物に対しては各都道府県に病害虫防除所が設置され、地域に発生した病害虫情報を速やかに把握し、被害の予防や拡大防止のために日々情報発信や指導を行っておられます。

都道府県病害虫防除所(出典:農林水産省Webサイト)

植物の病気への対処の法的根拠として、植物防疫法という法律が定められています(豚や鶏の場合は家畜伝染病防止法)。

植物防疫法において、急激に蔓延して農作物に重大な損害を与える可能性がある昆虫類や病害は「指定有害動植物」として、農林水産大臣が指定しています。例えば指定有害動物として、果物や野菜につくアブラムシ類、イネにつくトビイロウンカ、ヨトウガなどがあります。また指定有害植物としては、例えばムギの赤かび病菌やイネのいもち病菌、リンゴの黒星病菌などが指定されています。

昆虫については、幼虫が作物の葉を食べるといったように直接的な被害を与える場合もありますが、羽を持った成虫が、植物病に感染した作物から健全な作物に病原菌を媒介してしまうという場合もあります。

指定有害動植物(出典:農林水産省Webサイト)

これらの指定有害動植物による被害を防ぐため、国と都道府県の病害虫防除所が協力して「発生予察」という業務を行っています。これは病害虫の発生量調査から広がりそうなものを予測し、生産者にあらかじめ情報を提供することで、被害を軽減させるというものです。また指定外の病害虫であっても、各都道府県において被害が見られる病害虫を選定して発生予察を行うことになっています。

発生予察業務の目的
広域に発生し、急激にまん延して農作物に重大な被害を与える病害虫について、その発生動向等を調査し、防除を要する病害虫や防除対策に関する情報を農業者等に提供することにより、病害虫の防除を効果的かつ効率的に行い、その被害を防止して農業生産の安定と助長を図ることを目的としており、その実現を図るための事業として実施しています。出典:農林水産省Webサイト「発生予察事業とは」より

発生予察情報には以下の種類があります。

予報 病害虫の発生予測及び防除情報を定期的に発表
警報 重要な病害虫が大発生することが予測され、かつ早急に防除措置を講ずる必要が認められる場合に発表
注意報 警報を発表するほどではないが、重要な病害虫が多発することが予測され、かつ、早めに防除措置を講じる必要が認められる場合に発表
特殊報 新たな病害虫を発見した場合及び重要な病害虫の発生消長に特異な現象が認められた場合であって、従来と異なる防除対策が必要となるなど、生産現場への影響が懸念される場合に発表
その他 月報、技術情報など、上記に含まれない情報を発表

*予報は概ね月1回発表、それ以外は適宜発表

別記事で特集したサツマイモ基腐病の拡大についてでは、都道府県内で初めて発生が確認された場合に発表される特殊報と、再発であり被害の拡大が予想される地域で発表される注意報についての既報をまとめていますので、もし関心がございましたらご参照ください。

植物は病気に感染しても自ら症状を訴えられないので、発見が遅くなるケースもあります。しかし国や都道府県の病害虫防除所が調査や啓発活動を行い、現地の指導員と生産者が一緒になって植物病の対策を実施されているということを少し覚えておいていただければと思います。

 

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