令和2年度の中部地方発明表彰で文部科学大臣賞を受賞した「LAMP-FLP法」。
医療現場や農業分野など様々な分野での活用が期待されている技術ですが、どのような原理で遺伝子多型解析をおこなっているのか、できるだけ分かりやすく説明したいと思います。
DNAは、生物の体を作る設計図だと言われています。
このDNAは、A(アデニン)、G(グアニン)、C(シトシン)、T(チミン)の4種類の塩基から構成されており、ヒトの場合、1つの細胞の中に30億塩基もの情報が設計図として納まっています。
この設計図の情報は、人によって少しずつ異なっており、お酒が飲める・飲めないという体質の違いなどもこの事が影響しています。
飲酒後、アルコールは体内酵素の働きにより、二日酔いの原因となる有害物質のアセトアルデヒドに代謝され、更に体内酵素のアルデヒドデヒドロゲナーゼ2(ALDH2)の働きによって分解されます。
このALDH2遺伝子の配列が、G(グアニン)からA(アデニン)に1ヶ所変異するとアセトアルデヒドを分解する事ができなくなり、お酒が飲めない体質となります。
このように、塩基配列が1ヶ所だけ置き換わることを一塩基多型(SNP:Single Nucleotide Polymorphism)と言い、この他にも色々な遺伝子で変異が起こっています。
この一塩基多型(SNP)は、薬への効き方にも関係している為、近年では個人個人の体質にあった医療を提供するテーラーメード医療なども行われています。
一塩基多型(SNP)は細菌などにも存在しており、農業分野では変異によって農薬に対する抵抗性を持つ植物病原因菌の存在が問題となっています。
弊社で開発した「LAMP-FLP法」は、一塩基多型(SNP)による生物の性質の違いを迅速かつ簡便に検出する事ができるので、臨床現場や農業分野など様々な分野での活躍が期待されている技術です。
では、「LAMP-FLP法」では、どのように一塩基多型(SNP)を検出しているのでしょうか?
少し専門的な話になりますが、LAMP-FLP法は、LAMP(Loop-mediated Isothermal Amplification)法によるDNA増幅(ステップ1)と、蛍光共鳴エネルギー移動現象を利用した会合曲線解析(ステップ2)によって一塩基多型(SNP)の検出を行います。
<ステップ1:DNA増幅>
LAMP-FLP法では、最初のステップでLAMP法によるDNA増幅を行います。
LAMP法とは、栄研化学株式会社によって開発されたDNA増幅法であり、4種類(または6種類)のプライマーと鎖置換型DNA合成酵素を用いる事で、等温反応で爆発的にDNAを増幅する事ができます。
この時、一塩基多型(SNP)領域に、消光効果のあるクエンチャー物質を修飾したDNAプローブを置き、その隣り合う場所に蛍光物質を修飾したループプライマーを置くように設計するのがLAMP-FLP法のポイントとなります。(ポイント①)
上図のようにクエンチャー物質と蛍光物質が隣同士にいる場合は、クエンチャー物質の消光効果によって蛍光物質は消光状態となります。
<ステップ2:会合曲線解析>
LAMP法でDNA増幅を行った後、反応温度を98℃まで上昇させます。
普段は二本鎖状態のDNAですが、温度が高温になる事で二本鎖から一本鎖にDNAが解離します。もちろん、ステップ1で仕掛けておいたDNAプローブとループプライマーも一本鎖となるので、今までクエンチャー物質によって消光されていた蛍光物質が発光します。
この発光をモニターしながら温度を下げると、再びDNAプローブとループプライマーが二本鎖に結合し、クエンチャー物質と蛍光物質が隣同士に並ぶため、蛍光物質は再び消光状態となります。
この時、DNAプローブが一塩基多型(SNP)領域と完全に相補的な配列(フルマッチ)の時は、少し高い温度で二本鎖に結合して蛍光物質が消光するのに対して、DNAプローブが一塩基多型(SNP)領域の相補配列と一部不一致な配列を持つ(ミスマッチ)時は、少し低い温度で二本鎖に結合して蛍光物質が消光します。
蛍光物質が消光する温度の違いから、一塩基多型(SNP)の遺伝子型を解析するのがLAMP-FLP法の2つ目のポイントとなります。(ポイント②)
蛍光物質の蛍光値と温度勾配の相関を微分解析すると以下のような融解曲線解析グラフが描かれます。
染色体は、母親由来と父親由来がそれぞれ1本ずつセットになっていますが、そのいずれの遺伝子の一塩基多型(SNP)領域がDNAプローブと完全に相補的な配列(フルマッチ)の場合は、「フルマッチホモ」として少し高い温度でのみ消光のピークが現れます。
逆に、いずれの遺伝子の一塩基多型(SNP)領域がDNAプローブと一部不一致な配列を持つ(ミスマッチ)場合は、「ミスマッチホモ」として少し低い温度でのみ消光のピークが現れます。
ちなみに、DNAプローブが一塩基多型(SNP)領域に対してフルマッチ、ミスマッチのいずれもを持つ「ヘテロ」の場合は、消光のピークが2つ現れます。
LAMP-FLP法で一塩基多型(SNP)を解析する為には、温度調節と蛍光物質のモニターができる装置が必要となります。
「LAMP法用測定装置 LF-8 Plus」は、遺伝子多型解析、濁度測定、蛍光物質による遺伝子増幅データ解析、会合曲線解析などLAMP法に関連した様々な測定を行う事ができる装置ですが、もともとはLAMP-FLP法を用いた遺伝子多型解析装置として開発された装置です。
LAMP法用測定装置 LF-8 Plus
LF-8 Plusには、濁度と蛍光の2種類の測定器が搭載されており、濁度測定器では、LAMP-FLP法の「ステップ1:LAMP法によるDNA増幅」が上手く反応したかを確認します。(LAMP法でDNA増幅されると反応液が白濁するので、反応液の白濁の有無を確認)
また、蛍光測定器では、LAMP-FLP法の「ステップ2:会合曲線解析」による蛍光の変化を確認します。
LF-8 Plusにプログラムを予め入力しておくと、スタートボタンを押すだけで、簡単に一塩基多型(SNP)の解析を行う事ができます。
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